兵庫県地労委平成11年(不)第5号
    命   令   書

      申立人                      全日本港湾労働組合関西地方神戸支部
                                    代表者  支部執行委員長  喜多 英征

      被申立人                    本四海峡バス株式会社
                                    代表者  代表取締役社長  川真田 常男


兵庫県地労委平成11年(不)第5号本四海峡バス不当労働行為救済申立事件について、当委員会は、公益委員会議における合意の結果、次のとおり命令する。
 主        文
  1. 被告人は、申立人から平成11年8月9日付けで申入れがあった組合活動についての協定事項、緊急要求及び解雇撤回要求を議題とする団体交渉に誠意をもって応じなければならない。
  2. その余の申立は、これを棄却する。
  理       由
第1 認定した事実

 1 当事者
(1) 申立人全日本港湾労働組合関西地方神戸支部(以下「申立人組合」という。)は、港湾関係労働者及びトラック運送関係労働者を中心に組織する労働組合で、審問終結時における組合員は、321名である。
(2) 被申立人本四海峡バス株式会社(以下「会社」という。)は、肩書き地に本社を置き、一般乗合旅客自動車運送事業を主たる業務としており、審問終結時の従業員数は、運転士及び整備士(以下「運転士等という。)64名を含め100名である。
 なお、会社は、明石海峡大橋の供用に伴う影響により事業規模の縮小等を余儀なくされる一般旅客定期航路事業者(以下「関係船会社」という。)が共同出資し、新規事業の開拓及び船員等の離職者の雇用確保を目的として、平成7年に設立されたものであり、会社の運転士等の大部分は、関係船会社に勤務していた船員であった者を会社が雇用したものである。
 2 申立人組合加入の経緯 
(1) 会社においては、平成11年7月30日までは、運転士等58名全員が、全日本海員組合(以下「海員組合」という。)に所属しており、会社と海員組合とは、運転士等についてのユニオン・ショップ制を定める労働協約を締結している。
(2) 平成11年7月30日、海員組合の運営の在り方に不満を持った運転士等58名が、海員組合に連名で脱退届を提出し、同日、申立人組合に加入した。
(3) 同年8月9日、申立人組合に加入した運転士等が、本四海峡バス分会(以下「分会」という。)を結成し、分会長中田良治、副分会長日野隆文及び分会書記長板谷節雄(以下「中田ら3名」という。)外、分会役員を選出した。
 なお、同日朝、申立人組合は、会社が、海員組合から除名通知を受けた中田ら3名に対し、海員組合からユニオン・ショップ協定に基づく解雇要請を受けたことを理由に、解雇する旨、文書で通告したことを知った。
 3 団体交渉問題
(1) 平成11年8月9日午後1時ころ、申立人組合は、組合活動についての協定事項、労働条件についての緊急要求事項及び中田ら3名あての解雇通知の撤回を議題とする団体交渉の申入れをするため会社の事務所を訪れた。しかし、事務所入り口の社名プレートには白い紙が貼られ、ドアには「締切り」と書いた紙が貼られて、事務所は閉鎖されており、会社の電話は営業を終了した旨のテープが流れるのみで、申立人組合は、会社との連絡を取ることができなかった。
 そこで、翌10日、申立人組合は、分会員全員の名前を記載した同年8月9日付けの分会結成通告書及び同日付けの上記議題の団体交渉申入れ書を配達証明付書留郵便で会社に送付したところ、会社は、これを受領したが、何ら返答をしなかった。
(2) 同月13日、申立人組合は、当委員会に対し、会社を被申立人として団体交渉開催を申請事項とするあっせん申請をしたが、会社がこれに応じないとの態度を示したので、当委員会は、あっせんを打ち切った。
(3) 同月18日、中田ら3名が、神戸地方裁判所に、同人らが会社に対して労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めることを求めて、労働契約上の地位保全等仮処分を申し立てた(神戸地裁平成11年(ヨ)第303号)。
(4) 同月23日、申立人組合が、再度団体交渉開催要求書を内容証明郵便で会社に送付したところ、会社は、翌日これを受領したが、何ら返答をしなかった。
(5) 同年9月11日ころ、分会員43名が、海員組合の組合費のチェック・オフの中止を求める文書に署名捺印し、申立人組合は同文書を会社に郵送した。
 なお、この時までに14名の分会員が、申立人組合を脱退し、海員組合に復帰していた。
(6) 同月20日、申立人組合は、同年8月9日付けで申し入れた団体交渉の実施及び誓約文の掲示を求めて本件を申し立てた(平成11年(不)第5号)。
 4 本件申立て後の経過 
 平成11年10月12日、会社は、事務所を再開した。その後、会社は、事務折衝と称して、申立人組合と数回話合いを行ったが、その席上で、会社は、中田ら3名の解雇問題について解雇を撤回する意思がなく団体交渉を実施しても無駄であること、及び海員組合が中田ら3名以外の組合員の脱退を認めていない以上、会社は、会社従業員の中に申立人組合員がいるとの認識を持っていないので、団体交渉には応じられないことを繰り返し述べて、申立人組合との団体交渉には応じなかった。
 なお、本件審問終結時に至るまで、会社は、本件団体交渉申入れ事項に係る団体交渉には応じていない。
第2 判断

 1 申立人の主張
 会社が、申立人組合の団体交渉申入れに応じないことは、正当な理由によるものではなく、労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為である、
 2 被申立人の主張
(1) 海員組合員が海員組合を脱退する場合は、各人が個別に脱退届を海員組合に提出することになっており、脱退に際してこのような慎重な手続きを取ることは、十分な合理性がある。しかしながら、申立人組合がその組合員であると主張している会社の従業員から、海員組合に対し、個別に書面で脱退届が提出された事実はない。また、会社の従業員が海員組合員であるか、申立人組合員であるかということは、会社にとっては海員組合からの脱退通知を介してしか知り得ない事項であるが、会社は、中田ら3名以外についてのこの通知は受けておらず、会社の従業員中に申立人組合員がいることの断定はできない状況である。よって、申立人組合は、会社に対し、団体交渉を求めるべき地位にはない。
 そもそも、海員組合と申立人組合との間で、会社従業員の組合帰属問題が生じているのであれば、組合間で協議し解決すべき事柄である。したがって、申立人組合は、海員組合との間で、会社従業員の帰属問題を解決した後に、会社に対し団体交渉を求めるべきである。
(2) 会社は、中田ら3名については、海員組合から除名され、現在、海員組合員でないことを認識しており、同人らは、申立人組合に加入しているものと思われるが、会社は、これを明確には確認していない。
また、会社は、平成11年10月以降、数回にわたり、申立人組合の話を聞く機会を持っているが、その席上で、中田ら3名の解雇を撤回する意思のないことを明確に表明している。
 さらに、中田ら3名は、解雇問題について神戸地方裁判所に地位保全等仮処分申立事件、労働契約上の地位確認等請求事件を提起しており、このことは、解雇当事者である中田ら3名自身が、解雇問題について団体交渉による解決は不可能と認識し、団体交渉による解決を放棄しているものである。
 以上のとおりであるから、中田ら3名の解雇問題について団体交渉を行う実益はない。
 3 当委員会の判断
(1) 平成11年8月9日、申立人組合が、本件団体交渉の申入れに会社に赴いたところ、会社は事務所を閉鎖していたこと〔第1の3(1)〕、申立人組合が、本件団体交渉の実施を求めるあっせんを当委員会に申請したが、会社はこれに応じなかったこと〔第1の3(2)〕、会社が、平成11年10月まで事務所を閉鎖し、申立人組合の団体交渉申入れに対し何ら返答しなかったこと〔第1の3(1)、(4)及び4〕、及び会社が、その後の申立人組合との話合いにおいても、団体交渉には応じられないことを繰り返し述べ、申立人組合との団体交渉には応じなかったこと〔第1の4〕がそれぞれ認められる。
(2) ところで、労働組合は、労働者がその自由な意思の基づいて結成する団体であるから、組合員の脱退の自由はこのような団体の性質上当然に認められるべきであり、組合員が脱退するためには、当該労働組合に対して明確な脱退の意思表示をすれば足りるものと解される。
 本件についてみると、申立人組合員は、平成11年7月30日、海員組合に連名で脱退届を提出している〔第1の2(2)〕のであるから、海員組合に対し明確に脱退の意思を通知したものと認められ、同組合が申立人組合員の脱退を承認していないことをもって、その脱退を否定する理由とはならない。
 さらに、申立人組合は、分会員全員の名前を記載した分会結成通告書を会社に郵送し、会社はこれを受領している〔第1の3(1)〕のであるから、会社の従業員中に申立人組合員がいることの断定はできないとの会社の主張は失当である。
 よって、会社の第2の2(1)の主張には理由がない。
(3) ユニオン・ショップ協定に基づく解雇は、その効力をめぐって議論のあるところであり、中田ら3名の解雇問題については、当事者間において争われ、申立人組合から団体交渉が要求されている〔第1の3(1)ないし(4)〕のであるから、会社は、申立人組合からの団体交渉申入れに応じ、誠実に交渉すべきであって、会社が、解雇撤回の意思がないことのみを理由に、申立人組合との団体交渉を拒否したこと〔第1の4〕は、失当である。
 また、中田ら3名が解雇問題について民事訴訟を提起しているとしても、裁判等の司法手続と団体交渉とは、労使間の紛争の解決手段として、その目的や機能を異にするものであるから、中田ら3名が民事訴訟を提起することによって、団体交渉を行う実益が失われるものとは認められない。
 したがって、会社の第2の2(2)の主張もまた理由がない。
 4 救済方法
 申立人組合は、本件救済の方法として、誓約文の掲示をも求めているが、主文の程度をもって相当であると考える。
第3 法律上の根拠
 以上の認定した事実及び判断に基づき、当委員会は、労働組合法第27条及び労働委員会規則第43条の規定を適用して、主文のとおり命令する。
  平成12年6月20日
                                   兵庫県地方労働委員会
                                      会長   安 藤 猪 平 次
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