平成15年7月10日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成14年(ワ)第2221号 賃金等請求事件
口頭弁論終結日 平成15年5月8日
判 決
原告 中田 良治、日野 隆文、板谷 節雄
被告 本四海峡バス株式会社
代表者 川真田 常男
被告補助参加人 全日本海員組合
代表者 組合長 井出本 榮
主 文
- 被告は原告中田良治に対し、金294万8461円及び内金68万4393円に対する平成14年10月16日から、内金55万9243円に対する平成13年7月6日から、内金55万9243円に対する同年12月6日から、内金57万2791円に対する平成14年7月13日から、内金57万2791円に対する同年12月6日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
- 被告は原告日野隆文に対し、金350万3697円及び内金104万6925円に対する平成14年10月16日から、内金60万7346円に対する平成13年7月6日から、内金60万7346円に対する同年12月6日から、内金62万1040円に対する平成14年7月13日から、内金62万1040円に対する同年12月6日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
- 被告は原告板谷節雄に対し、金419万1961円及び内金151万2401円に対する平成14年10月16日から、内金66万3302円に対する平成13年7月6日から、内金66万3302円に対する同年12月6日から、内金67万6478円に対する平成14年7月13日から、内金67万6478円に対する同年12月6日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
- 訴訟費用のうち、補助参加によって生じた費用は被告補助参加人の負担とし、その余は被告の負担とする。
- 本判決は、第1ないし第3項に限り仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 原告らの請求
主文第1ないし第3項同旨(平成14年10月16日は訴状送達の日の翌日である。)。
第2 事案の概要
原告ら3名は、被告の従業員であり、従前、全日本海員組合(被告補助参加人、以下「補助参加人組合」という。)に加入していたが、平成11年7月30日付けで他の組合員とともに補助参加人組合を脱退し、同日、全日本港湾労働組合(以下「全港湾」という。)に加入したところ、同年8月6日に補助参加人組合が原告ら3名を除名処分にし、同月9日に被告が、補助参加人組合とのユニオン・ショップ協定に基づき、原告らを解雇した(以下「本件解雇」という。)ため、原告らが、本件解雇は無効であると主張して、被告に対し、未払賃金等を請求している。
1 争いのない事実等
(1)当事者
ア 被告は、一般乗合旅客自動車運送事業等を業とする株式会社であり、本四連絡橋(明石海峡大橋)の開通による一般旅客定期航路事業者の事業縮小に伴う対策として、新事業の展開、船員等の離職者の雇用確保を目的として平成7年4月14日に設立された。
イ 被告は、明石海峡大橋の開通に伴い、平成10年4月6日から、大阪・神戸−淡路−徳島間のバス路線を西日本ジェイアールバス及びJR四国と共同運行しており、営業開始時の従業員は83名で、そのうち運転士・整備管理者(事務兼務を含む。)は58名であり、うち52名が船員等の本四連絡橋関係離職者である。
ウ 原告らは、もと船員であり、平成10年4月1日に被告に雇用され、原告中田は運転士として、原告日野及び同板谷は運転士兼指導員、後に首席運転士として勤務していた。
エ 原告らは、いずれも全港湾関西地方神戸支部本四海峡バス分会に所属する組合員であり、原告中田は同分会の分会長、同日野は副分会長、同板谷は書記長である。(弁論の全趣旨)
(2) 原告らの補助参加人組合からの脱退及び全港湾への加入
ア 当初、被告の従業員のうち、原告らを含む運転士及び整備管理者の全員が補助参加人組合に所属していたところ、平成10年6月26日、被告と補助参加人組合との間で、被告の所属運転士及び整備士はすべて補助参加人組合の組合員でなければならず、被告は、補助参加人組合に加入しない者、又は組合員の資格を失った者を引き続き運転士等として雇用してはならない、とのユニオン・ショップ協定(以下「本件ユニオン・ショップ協定」という。)が締結された。
イ しかし、平成11年7月30日、当時被告に在職していた原告らを含む運転士及び整備管理者58名全員が補助参加人組合に脱会届を提出して同組合を脱退するとともに、同日、上記58名全員が全港湾に加入届を提出して、全港湾に加入した。(甲1、2、弁論の全趣旨)
(3) 本件解雇
ア 補助参加人組合は、同年8月6日、原告ら3名に対し除名処分をなした上、同日、被告に対し、本件ユニオン・ショップ協定に基づき原告らを解雇するよう要請した。
イ 被告は、同月9日、原告ら3名を解雇し、同解雇通知は、同日午前中に原告らの自宅に到達した(以下「本件解雇」という。)。
(4) 前訴の提起及び結果
ア 原告らは、平成12年3月7日、神戸地方裁判所に、原告らが被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び本件解雇後の未払賃金等の支払を求める訴えを提起し(平成12年(ワ)第505号労働契約上の地位確認等請求事件)、補助参加人組合が被告に補助参加したところ、同裁判所は、平成13年10月1日、原告らの上記地位を確認し、被告に対し、未払賃金等(但し、前訴の判決確定の日までの賃金と、平成12年冬季分までの一時金)及び慰謝料の支払を命ずる判決(以下「前訴1審判決」という。)を言渡した。これに対し、被告が大阪高等裁判所に控訴したが、同裁判所は、平成14年4月23日に口頭弁論を終結し、同年7月30日に控訴棄却の判決を言い渡し、さらに、被告が上告及び上告受理の申立をなしたが、最高裁判所は、平成15年2月27日、上告棄却及び上告不受理の決定をなし、前訴1審判決が確定した。(甲1、2、9)
イ 前訴1審判決は、本件ユニオン・ショップ協定につき、補助参加人組合以外の他の労働組合に加入している者及び補助参加人組合から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者について使用者である被告の解雇義務を定める部分は民法90条の規定により無効であり、本件解雇は上記協定に基づく解雇義務が生じていないのになされたものであり、他にも本件解雇の合理性を裏付ける特段の事由が認められないので、解雇権の濫用として無効であると判示し、控訴審判決もこの判断を支持した。(甲1、2)
(5) 賃金等の支給日
被告の従業員に対する賃金の支給日は毎月25日であり、平成13年夏季一時金の支給日は同年7月5日、冬季一時金の支給日は同年12月5日、平成14年夏季一時金の支給日は同年7月12日、冬季一時金の支給日は同年12月5日である。(甲7、8、弁論の全趣旨)
(6) 原告らの未請求賃金等
ア 増額された賃金等(賃金並びに夏季及び冬季一時金)と本件解雇時の賃金等との差額(未請求賃金)
(ア) 原告中田関係
- 原告中田の本件解雇時の賃金(本給・勤続給・勤務地手当)は、月額18万8686円であったが、平成12年4月1日に月額20万0571円に、平成13年4月1日に月額20万8018円に、平成14年4月1日に月額21万3663円に、それぞれ増額された。
- 上記額による賃金と本件解雇時の賃金との差額は、平成12年4月分から平成15年1月分までで、62万4374円である。
- また、上記増額による平成12年夏季一時金及び冬季一時金と本件解雇時の賃金を基準とした一時金との差額は、6万0019円である。
(イ) 原告日野関係
- 原告日野の本件解雇時の賃金(本給・勤続給・勤務地手当・事務兼務手当)は、月額19万8340円であったが、平成12年4月1日に月額21万8047円に、平成13年4月1日に月額22万8061円に、平成14年4月1日に月額23万3767円に、それぞれ増額された。
- 上記額による賃金と本件解雇時の賃金との差額は、平成12年4月分から平成15年1月分までで、94万7406円である。
- また、上記増額による平成12年夏季一時金及び冬季一時金と本件解雇時の賃金を基準とした一時金との差額は、9万9519円である。
(ウ) 原告板谷関係
- 原告板谷の本件解雇時の賃金(本給・勤続給・勤務地手当・事務兼務手当)は、月額21万3626円であったが、平成12年4月1日に月額24万5239円に、平成13年4月1日に月額25万5376円に、平成14年4月1日に月額26万0866円に、それぞれ増額された。
- 上記額による賃金と本件解雇時の賃金との差額は、平成12年4月分から平成15年1月分までで、135万2756円である。
- また、上記増額による平成12年夏季一時金及び冬季一時金と本件解雇時の賃金を基準とした一時金との差額は、15万9645円である。
イ 未請求一時金
(ア) 原告中田関係
原告中田の平成13年夏季一時金及び冬季一時金はそれぞれ55万9243円であり、平成14年夏季一時金及び冬季一時金はそれぞれ57万2791円である。
(イ) 原告日野関係
原告日野の平成13年夏季一時金及び冬季一時金はそれぞれ60万7346円であり、平成14年夏季一時金及び冬季一時金はそれぞれ62万1040円である。
(ウ) 原告板谷関係
原告板谷の平成13年夏季一時金及び冬季一時金はそれぞれ66万3302円であり、平成14年夏季一時金及び冬季一時金はそれぞれ67万6478円である。
2 争点(本件解雇の効力=原告らと被告との雇用関係の有無)
(1) 原告らの主張
本件解雇が無効であることは、上記争いのない事実等(4)イの前訴1審判決の判示のとおりであるから、原告らは被告に対し、労働契約上の権利を有する地位にある。
よって、原告らは被告に対し、上記の賃金及び一時金の請求権を有する。
(2) 被告の主張
ア 本件ユニオン・ショップ協定に基づく解雇の有効性
(ア) 被告は、明石海峡大橋の開通に伴い、事業の縮小等を余儀なくされる旅客船事業者の離職者の受け皿会社という特殊性を有しており、運転士等の従業員を広く一般から公募できない状況下にあったものであり、被告と補助参加人組合との間で締結された本件ユニオン・ショップ協定は、実質的にはクローズド・ショップ協定である特殊なな協定である。
(イ) このような被告の設立の経緯や特殊な性格、本件ユニオン・ショップ協定の特殊性を考慮すると、同協定の解釈適用にユニオン・ショップ協定に関する一般理論は適用できない。
(ウ) よって、本件ユニオン・ショップ協定が、補助参加人組合から除名又は脱退したが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者に対する被告の解雇義務を定めたものであるとしても、これに基づく本件解雇は有効である。
イ 被告が本件ユニオン・ショップ協定に基づく解雇義務を負わない場合の本件解雇の合理性
(ア) 原告ら3名は、被告設立後、補助参加人組合と被告との団体交渉その他の補助参加人組合の活動において、職場代表として主導的役割を果たしてきたから、補助参加人組合から除名された後も被告に在職させることは、被告の上記特殊性から到底認められない。
(イ) また、原告ら3名を中心とする全港湾の組合員らは、全港湾神戸支部役員及び従業員と全港湾加盟の他社労働組合員らとともに、平成11年10月12日から同年12月31日までの間、多数回にわたり、被告の事務所に押し掛け、被告の業務を妨害するなどした。
(ウ) よって、本件ユニオン・ショップ協定により被告が解雇義務を負わない場合でも、本件解雇は十分な合理性があり、有効である。
第3 争点に対する判断
1
上記争いのない事実等(2)、(3)によれば、被告は原告らに対し、本件ユニオン・ショップ協定に基づき本件解雇をなしたこと、同協定は、補助参加人組合以外の他の労働組合に加入している者及び補助参加人組合から脱退し又は除名されたが、他の労働組合に加入し又は新たな労働組合を結成した者についても、使用者である被告の解雇義務を定めたものであると解されるところ、上記のような者に対する被告の解雇義務を定めた部分は、民法90条に違反し無効であると解するのが相当である。
この点に関し、被告は、被告会社の特殊性等を縷々主張するが、それらの事情は、上記判断を左右するに足りない。
そうすると、本件解雇は、本件ユニオン・ショップ協定に基づく解雇義務が生じていないのになされたことになるから、他に特段の事情がない限り、解雇権の濫用として無効である。
2
被告は、本件ユニオン・ショップ協定に基づく解雇義務を負わない場合でも、本件解雇は十分な合理性があると主張する。
しかしながら、被告主張のように、原告らが補助参加人組合の活動において、職場代表として主導的役割を果たしてきたとの事情は、補助参加人組合から除名された原告らを解雇する合理的な事由とは到底認めがたい。
また、被告は、原告らが多数回にわたり被告の業務を妨害する行為を行ったと主張するが、これらの事実は本件解雇後のものであるし、その点は措いても、これらの事実を認めるに足りる証拠がない。
のみならす、証拠(甲1、2、9)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件解雇の効力が主たる争点となった前訴において、これらの事実を主張せず、既に前訴の判決が確定したことが認められるから、本訴においてかかる事実を主張して本件解雇の有効性を主張することは紛争の蒸し返しであって、訴訟上の信義則に反し許されないものと解するのが相当である。
そして、他に上記の特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
3
なおまた、上記争いのない事実等(4)によれば、前訴の判決確定により、前訴の控訴審の口頭弁論終結日である平成14年4月23日の時点において、原告らが被告に対し労働契約上の権利を有する地位にあるが不可争性をもって確定しているから、それ以降の期間について、被告としては、労働契約の新たな終了事由を主張立証するのでない限り、原告らと被告との間の雇用関係の存在を争うことはできない。
第4
- 以上によれば、原告らの本訴請求は理由があるので容認し、訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)の負担につき民訴法61条、66条を、仮執行宣言につき同法259条を各適用して、主文のとおり判決する。
神戸地方裁判所第6民事部
裁 判 官 田 中 澄 夫
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