「裁量労働制が広がると、弟のような目に合う人が増えるのではないかと心配です」。99年、当時34歳で自殺した諏訪達徳さんの姉、A子さん(42)は表情を曇らせる。
「毎晩残業で疲れる。降格させてくれないかな」「人間には限界がある。僕の場合は、すでに限界を超えてしまっているよ」―。建設機械大手「コマツ」(本社・東京都港区)の研究所に勤めていた達徳は、長時間労働の疲れを周囲にもらした数ヶ月後、マンションのベランダから身を投げた。
97年4月以降、研究開発や記事の編集などの業務が対象の「専門業務型裁量労働制」の適用者となり、同社の労使協定で、一日の労働時間は8時間とみなされた。通常の給与のほか、月4〜6万円の裁量労働者向け手当を受け取っていたが、遺族側の調査では、時間外労働が100時間を超える月も多く、裁量労働制であっても、本来支払われるべき深夜や休日労働の割増賃金は支払われていなかった。
遺族は損害賠償を求め、裁判で係争中だ。「上司が決めた納期を守るため、弟は長時間、働かざるを得なかった。裁量労働制なんて名ばかりです」。A子さんは唇をかみしめる。
裁量労働制は、労働時間の長さで成果を測りにくい仕事を行う労働者を対象に、あらかじめ労使で決めた時間、働いたとみなす制度。
4月に始まった厚生労働省の労働時間制度に関する研究会では、対象業務の拡大や導入手続きの簡素化など、労働時間の規制緩和がテーマとなっている。
日本経団連は先月の研究会で、裁量労働制の考え方をさらに進め、専門職や一定要件を満たす事務職については、労働時間に関係なく成果に基づく賃金を支払い、深夜や休日の割増賃金は支払わなくてもよい仕組みを導入するよう求めた。
| 裁量労働制の概要 |
| 専門業務型 |
企画業務型 |
専門職
・新商品の研究開発
・新聞、出版事業の取材・編集など
19業種
研究者、新聞・テレビ記者、プロデューサー、公認会計士、弁護士など |
適用労働者の割合:社員の0.9% |
ホワイトカラー
・企画、立案、調査、分析
経営計画策定担当者、新人事制度構築者、財務計画策定担当者など
|
適用労働者の割合:社員の0.1% |
讃井暢子・労働法制本部長は、「働く時間を自分で調整できる方が、労働意欲も、生産性も高まる」と説明。健康への配慮については「労使が話し合って決めればいい」という。
これに対し、連合は、経団連の提言のモデルとなっているアメリカの制度を視察したうえで、「法制度や労働者の意識などの前提条件に違いがある」と導入反対の姿勢を示す。
労働相談などを行っている「日本労働弁護団」は、きょう13日、この問題について都内で集会を開く。鴨田哲郎・同弁護団幹事長は、「仕事の進め方や働く時間などで、本当に裁量がある人は一握り。リストラが進む今の職場事情を考えれば、労働時間の規制緩和は普通サラリーマンの残業代なしの長時間労働につながる」と危機感を強める。
裁量労働制のもとでは、どんな働き方がされているのだろうか。厚労省が2000年度、導入企業に対して行った調査によると、「専門業務型」適用者の約20%が、導入により、「労働時間が長くなった(やや長くなったを含む)」と回答、「短くなった(やや短くなったを含む)」の14%を上回った。
また、社会経済生産性本部の同年の調査では、裁量労働制適用者中、仕事の進め方の裁量を、「認められていない」「一部の人だけに認められている」が計30%に上り、出退勤時間を自分で決められない人も10%いた。
同本部の村田祐一研究員は、「裁量労働制の趣旨を考えれば、仕事の進め方などで労働者により多くの裁量を持たせ、ゆとりを確保するのが重要だ」と話している。