ルネサンス84
今世紀の初め、アメリカのある実業家は、事業の秘訣をこう語った。「私は労働者の楽園をつくろうとした。結果は、それが非常な利益をもたらした」と。当時の経営者は、ただ労働者を使うことだけを考えていた。しかし彼は反対だった。労働者が楽しんで働ける会社をつくろうと考えたのである。発想の転換であった。それまで労働者は酷使され、けが人も多かった。
しかし、彼は自分の工場を理想的なものにしようと、細かいところまで気を配った。細かいところまで気を使うのが、本当の指導者である。本当の責任感である。実業家も、工場の機械の置き方を工夫したり、通路に信号を置いたりして、安全を徹底した。
「小事が大事」である。一番、身近な事が、一番、大切なのである。彼は、労働者の待遇も改善し、物質的にも精神的にも、できる限りの援助を惜しまなかった。それは労働界の一つの革命だった。
他の実業家は、その姿を見てあきれた。「あんなによくしては、労働者を甘やかすだけだ。後になって、しっぺ返しされる」「費用だって大変だ」と批判した。
やがて第一次大戦が始まる。
労働者が不足する。熟練工は賃金を高くしないと来てくれない。どの工場も困った。しかし彼の工場だけは、皆が喜んで来てくれたため、少しも困らず、大きな利益を上げた。「工員は、ただ働けばよいのだ」という傲慢を捨てて、働く人への感謝と愛情を根本にしたのが、勝利の原因であった。
ひとつの「精神革命」であり、「労働革命」であり、「組織革命」であった。すべては人で決まる。中心者で決まる。
イギリスのサッチャー前首相にお会いしたとき、私は東洋人として、中国の言葉を贈った。「民を愛する者は強く、民を愛せざる者は弱し」と。サッチャー前首相も、うなずいておられた。
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