ある旅芸人の記録

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 今日より37
 変転する慢の心は醜い。それに対し、必定まれる信念の人の生死は美しい。  
 ある人が、ギリシャ映画の忘れがたい一シーンを語ってくれた。題名は「旅芸人の記録」。ギリシャ現代史を象徴的に描いた作品である。  
 蜜柑の木の下、乾いた土を掘って、一人の青年の棺が埋められようとしていた。  
 青年は第二次大戦中、祖国ギリシャを占領したナチス・ドイツと戦い、勝利した勇敢なゲリラの一人である。ところが、この英雄は戦後、反共的な新政府に追い回されることになる。  
 つかまれば拷問、転向のサインをしなければ、死ぬまで、いたぶりが続く。ナチスとの戦いから数えて十年。ついに彼は捕らえられる。転向を拒否。祖国を救った勇者は、なんと、その祖国の政府の手で処刑されてしまうのである。  
 これ以上の悲劇もない。一体、だれのための、何のための戦いであったのか。  
 何ごとも、勝たねば悲惨である。強くまた強くあらねばならない。
 彼の遺体は、ボロ切れのようになって、家族に引き渡される。友人たちが埋葬に立ち会った。  
 荒涼たる原っぱ。暗い空。たった六人の寂しい葬儀。遺体が埋められようとした、その時である。  
 思わず一人が「拍手」を送った。一人から二人へ、二人から三人、四人、五人へ…。みなの無言の拍手が、勇者の上に、いつまでも、いつまでも降り注いだ。  
 "友よ、君の「死」に、君の「生」に、僕たちは熱き「拍手」を送る。それは、どんな名優のドラマよりも荘厳な、立派な劇であった=B  
 彼らの思いを、仮に言葉にすれば、このようでもあろうか。  
 何の栄誉もない、寂しき埋葬であった。しかし、真実の同志の称賛の「拍手」に包まれた死は、いかなる華美、盛大な権勢家の葬儀よりも美しい。そこには真実の「人間としての勝利」があった。  

 


 

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