輝き4
「絶対に無理だ」と言われた山
一八六一年の八月。雄大なアルプスの峰・マッターホルンに敢然と挑みゆく一人の青年がいた。弱冠二十一歳、イギリスの若き登山家ウインパー(一八四〇〜一九一一年)である。マッターホルンの頂は、ピラミッドのごとく壮麗に天高く、そびえ立っている。標高は四四七八メートル。古来、「魔物が住む山」として恐れられ、「絶対に人間は登ることはできない」と言われてきた。数あるアルプスの山々の中でも、最後まで登頂されなかった険難の山である。前人未踏の峰に、青年は大胆にも挑戦を開始した。しかし、初めての登攀は、あえなく失敗。それでも青年は不屈の負けじ魂を奮い立たせた。“私が山に敗れるか。それとも山が私に敗れるか。決右をつけるまで戦い続ける!”と ─。
七回、失敗した後「栄光の記録」を
来る年も、また来る年も、青年は険しい山へ勇んで向かった。ある町は、頂上の手前、わずか四百三十メートルにまで辿りながら、足を滑らせて、六十メートルも転落し、重傷を負った。またある時は、落石に襲われ、下山を余儀なくされた。こうして、実に七回にわたって、彼は悔し涙をのんだ。
しかし、彼はあきらめなかった。巨大な目標に体当たりでぶつかってこそ、青年は、自分の小さなカラを破り、成長していく。一八六五年の七月十四日、八回目にして、彼はついに念願の山頂に到達したのである。彼を中心とする一行七人は、晴れ晴れと、勝利の頂上に立った。“私は勝った”“我らは我らの目標を制覇した”二十五歳の青年が成し遂げた快挙であった。青年ならば、“自分はこれをやりきった!”と胸を張れる、「青春の栄光の記録」を残していただきたい。
一瞬の油断が悲劇をもたらす
ところで、マッターホルンの山頂に立った、あの登山家たちは、その下山の途中に転落事故に遭い、一行七人のうち四人もが犠牲となってしまった。栄光の直後の悲劇を、彼は痛恨の思いで振り返っている。「一瞬の不注意が、一生の幸福を破滅に陥れる」(ウインパー著『アルプス登誓記(下)』浦松佐美太郎訳、岩波書店)
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