監督:フレッド・ジンネマントマス・モア:ポール・スコフィールド
リチャード・リッチ:ジョン・ハート
ノーフォーク公:ナイジェル・ダベンポート
アン・ボレン:ヴァネッサ・レッドグレーブ
解説
ヘンリー8世の離婚問題
ヘンリー8世は即位のとき、アラゴンのキャサリンをめとる(1509年。スペインとの同盟関係を強化する政略結婚)。キャサリンはヘンリーの兄アーサーの未亡人であり、スペイン王のフェルナンドとイサベルの娘である。キャサリンはヘンリーの跡継ぎの男子を産まない。王妃の子供で早死にしなかったのは、青白くやせていて、内向的な性格の王女メアリーただ一人であった。
ヘンリーが王妃キャサリンの侍女アン=ブリンに夢中になったのは、そのころ。彼女はヘンリーの思いをうけるかわりに、王妃になることを望んだのである。アンはそのとき身ごもっていた。ヘンリーは、アン=ブリンとの結婚を決意。教皇の離婚許可を得ようとする。教皇クレメンス7世は、カール5世(キャサリンはカール5世の伯母)への政治的配慮とヘンリーの板ばさみになって、手をこまねいて一時のがれに問題の解決を引き延ばしたのである。
ヘンリーはアンとひそかに結婚し、カンタベリー大司教クランマーに自分とキャサリンの結婚は最初から合法的なものでなかったから無効であると声明するよう指示した。クランマーは指示通りおこない、アンはイギリス王妃となることができた。
クレメンス7世は報復手段として、ヘンリーを破門。しかし、国民感情がつよく、イギリス国民は国王を支持した。
このとき、ヘンリーに忠誠を誓うことを拒否し、沈黙をつづけたのがトマス=モアであった。ヘンリー8世の行為はモア信仰上の信念からは認めることができるものではなかった。彼は大法官の地位を辞し、ヘンリー8世とアン=ブリンとの結婚式にも出席しない。
ヘンリー8世とアン=ボレンの結婚の祝宴。別人をトマスの後姿と見間違うヘンリー8世。彼が自分の結婚を認め祝福さえしてくれれば・・・。
圧力が加わる。大法官の秘書クロムウェル(レオ・マッカーン)による問責がはじまる。
トマス:「シャラップ!子供は脅迫できても、私にはできぬ」
クロムウェル:「お帰りなさい」、「今日は」
(トマスが出て行く)
「手段は選ばぬ!」
外で待つトマスの友人、ハワード卿
ハワード卿:「折れろ」
トマス:「できぬ。しかし、友情に変わりはない」「このまま、主のもとへいけるか」
(ハワード卿との決別)
ついで、新法案が議会を通過。王位継承法に宣誓を拒否。トマスはロンドン塔に幽閉される。そして反逆罪で査問委員会に呼び出される。署名を迫る大主教に対し、
トマス:「(地球)平らなものを、王命で丸くできるでしょうか?丸いものを平らにできるでしょうか?」
幽閉中のトマスと家族の面会の場面
マーガレット(娘):「宣誓してここから出て」
トマス:「よいかね、宣誓は自分を水のように自分を両手で持つことになる。指を開けば自分自身はなくなってしまうのだ。そのような人間にだけはなりたくない」
「われわれの周囲で、私欲や名利や愚行が慈善や謙遜・正義以上に尊ばれている時、我々は断固自分の考えを守り抜くべきだ」
そして、妻の理解を求めるトマス・・・
アリス(トマスの妻):「私にわかるのは、あなたが最高の人だということ。神は何も言われなくても、あなたを理解しておいでです。国王に対する私の考えならいつでも言ってやるは!」
トマス:「私はライオンと結婚したようだ」
最後の法廷へ向かうトマス。
ハワード卿:「そちの命は、そちの手中にある」
トマス:「ではしっかり握っていよう」(法廷に笑い。ユーモアを忘れぬトマス)
そして、リッチ(ジョン・ハート)の偽証により有罪が確定。
ここで、はじめてトマスは自分の意見を表明する。
「有罪が確定した以上、思うままに意見を述べさせていただきたい」
「私の血を求めるのは教会の主権のためではない。私が国王の結婚を認めぬからにすぎない」(法廷は騒然)
判決は、斬首刑。
処刑の場面
「私は王の忠実な下僕として死にます。だが王より神のために死ぬ」との簡潔なスピーチ。
処刑執行者に対し、
「私は君を許そう。恐れずに神のもとにおくってくれ」
モアの信仰心の厚さやその信念に深く心を打たれた映画であったが、最後の法廷の場面で、ローマ教会の権威がイエスに由来することを述べる。それが彼の信念であったから死をものともしなかったのであるが、しかし、堕落した教会の権威を否定し、聖書の中に直接神の教えを求める宗教改革の精神は見られない。歴史的見地からみれば、古き精神の持主といえるのであろうか。