「人事労務のトラブル防止について」

井上労務管理事務所

社会保険労務士 井上 博文

第2章 普通解雇等をめぐる事例

普通解雇

   1.       試用期間中の従業員の解雇と通常の解雇との違いは

 試用期間中は、使用者は正社員の場合よりも広い解雇権を有するが、その解雇権の行使も客観的・合理的理由があり、社会通念上相当な場合に限られる。 
 留保解約権の行使は通常の解雇より広く認められるのですから、本採用が困難であると判断された場合には、必ず試用期間中に解雇(留保解約権の行使)すべきです。試用期間の延長は通常の場合労働者に不利な措置ですから、本来は本採用を拒否できるような状況にあるときに、労働者の利益を考え解約権の行使を猶予する趣旨で行うような場合を除き、原則として許されないものと解されます。


2. 勤務成績不良を理由として普通解雇できるか

  職務が基本的で重要なものであり、成績不良の原因が能力に由来する等の客観的に合理的理由がある場合は、解雇権の濫用とならない。
 従業員の勤務成績不良に悩む企業は多くあると思われますが、解雇という手段をとる場合、解雇権濫用の法理によって、客観的に合理的理由のない解雇は無効になります。
つまり、勤務成績不良が雇用関係という継続的身分関係を一方的に消滅されるにやむを得ない程度かが問われるわけです。その際、まず成績不良とされる職務の重要性、成績不良の程度・内容(具体的事実)、その結果使用者に発生した不利益・損害、従業員に教育・注意したか否かがポイントになります。
特に従業員が内勤業務の場合、成績不良の証拠が抽象的になりやすく、また、成績不良の指摘に対して、業務量が過大であったと反論してくるのが通常ですので、企業としてこれらの点は、押さえるべき重要なポイントになります。

 

3.        職務遂行能力不足等を理由として普通解雇できるか

 職務遂行能力不足の程度を把握し、指導教育を実施したかなどを考慮の上、客観的に合理的な理由がなければ解雇権濫用となるため注意を要する。
 
 従業員の職務遂行能力の不足に悩む企業は多くあるものと思われますが、まず、最高裁 の判例理論で、客観的に合理的理由のない解雇は無効になることを充分理解する必要があります。
その上で、何が客観的にみて合理的な理由と認められるかについては、当該労働者の職務内容をまず確認する必要があります。
次に、その職務内容に照らして現実の職務遂行能力がどの程度不足しているかを具体的事実を挙げて整理する必要があります。
その上でその程度の不足で解雇するのが妥当かを判断するのです。その際、企業が当該労働者を教育したかとか、当該労働者を注意したかといったものも重要な要件になってきます。
最近では、中途採用で幹部社員を採用したが待遇に見合う職務遂行能力がないということで解雇するケースが増えており、このようなケースは、比較的裁判所も解雇を有効とする傾向にあります。

 

4.        私傷病休職後に障害が残った従業員を普通解雇する場合の注意点は
 
 私傷病休職後に機能障害が残った従業員を「傷病等のため将来業務に耐えられない」として普通解雇する場合は、他の職務への復帰の可能性なども検討する必要性がある。
  私傷病休職後の労働者の処遇については、まず傷病休職制度の基準に沿って検討すべきです。その際、後遺症の等級から抽象的に判断するのではなく、具体的に@当該労働者が入社後従事してきた仕事、A労働能力喪失後の当該労働者の作業能力の見極め、Aの能力で@が可能かを判断するのです。その際、B当該労働者が労働能力回復にまじめに努力してきたかとか、C当初は軽易作業に就かせればほどなく通常業務へ復帰できるという回復ぶりか、なども重要なファクターとして判断の資料に入れる必要があります。

 

5.        業務上傷病の症状固定後に普通解雇できるか

 業務上の負傷による疾病が症状固定の状態になったとき以降は、労働基準法19条1項の解雇制限は適用されず解雇できるが、解雇権の濫用には注意を要する。
 第一に、治癒、または症状固定の有無・時期の正確な判断をすることです。それには、診察結果、労働基準監督署の対応が重要なファクターになります。
 第二に、第一の点で労働基準法19条1項の制限はないということでも解雇権濫用になっていないかを検討する必要があります。それは、症状固定後の労働者の作業能力が、従前の業務を行えるほど回復しているか、労働者の雇用継続のための努力(作業能力を回復させるための努力をしたか)、使用者の雇用継続のための努力(軽作業、治癒への協力、労働者・組合との協議)が重要なファクターになります。

 

6.        解雇はいつまで争うことができるか
 
 解雇された従業員が退職金を異議なく受領し、長期間解雇の効力を争わなかったなどの事情がある場合は、その従業員は解雇を承認したものとして解雇の効力を争えなくなる。
 結局のところ、裁判所においても「もはや解雇無効を争う事は許されない」と判断され るか否かについては、まさにケース・バイ・ケースの判断がなされているのであり、いざ解雇した従業員から裁判を起こされた場合に備えて、会社が従業員の解雇という重大事に望む場合に、当該解雇が実体的に合理的理由に基づくものであることを証明し得る資料を収集することは当然ですが解雇後も当該資料を保管しておくことにも充分に意を払っておくべきです。

 

7.        解雇を理由として社宅明渡請求ができるか

 社宅使用の法律関係はその使用形態により様々であるから、社宅使用関係を雇用関係の終了とリンクさせたいのであれば、社宅使用契約や社宅使用規定にそのことを明示すべきである。
 社宅、すなわち使用者が従業員に貸与する住宅である以上、雇用関係終了後も貸借関係 を継続させるということは使用者の意図するところではないのが普通です。
そうであるとすれば、賃貸借でなく、雇用契約を前提とする特殊な契約関係である事が明らかになるように、また雇用関係が終了したときは、従業員に対して社宅に明渡しを求められるように社宅使用契約を締結し、あるいは社宅規程の整備等しておく事が必要でしょう。
その場合、使用料の設定は賃料相場より相当程度低くするとともに、雇用関係が終了したときには当該従業員は社宅を明け渡さなければならない旨をはっきり明示する事が大切です。

 

8.        試用期間中の解雇は許されるか

 試用契約は、解雇権留保付き労働規約というべきであり、その留保解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認される場合にのみ許される。
 試用期間中であるからといって全く会社の自由に本採用を拒否する事は認められません。判例上、試用期間は採用決定当初資料を十分収集できない当該労働者の資質・性格・能力などの適格性の有無等に関する事項について後日において調査・観察するための期間と位置付けられており、本採用後の解雇ほど厳格ではないとしても、試用期間後の本採用拒否は「解雇」として相当な理由が必要である事を理解しておく必要があるでしょう。

 

9.        勤務成績不良を理由とする解雇は有効か
 
 職務上の不適切な取扱いやミス、上司等とのトラブル等個々の事実ひとつひとつを見れば解雇に値するほど重大な事実といえない場合であっても、短期間にこれら事実が重なれば総合的判断の結果、解雇は有効とされる。
 就業規則に解雇事由の一つとして勤務成績不良、勤務態度不良等が挙げられているのが 一般的です。
これを用いて従業員を解雇する場合、いうまでもなく重要なのは勤務成績不良、勤務態度不良を基礎づける従業員の個々の行為等です。営業担当社員のように成績が数値化できるケースはともかく、一般的には勤務成績不良、勤務態度不良を基礎づける個々の事実を立証することは困難を伴います。したがって、これを理由として従業員を解雇しようとするときは、日常の業務の中で当該従業員の勤務ぶりを必ず記録しておくべきでしょう。
当該従業員に対し注意して勤務成績、勤務態度の改善を求めることが必ず必要です。
これを文書化し、この事例のように当該従業員に交付してその後一定期間改善の有無を確認すべきでしょう。
それでも改善が認められないときは、解雇ということになりますが、解雇する前に退職を勧告すべきでしょう。
といいますのは、解雇ということになれば紛争に発展する可能性がありますが、退職は本人自らの意思で退職するのですからその可能性は極めて少ないはずです。
また、解雇権濫用の主張を排斥する理由の一つともなるからです。

 

10.    労働能力の著しい低下による解雇はどのような場合に認められるか

 休業または休職に伴う一時的な業務能力の低下があっても、短時間に従前の職務に復帰可  能な状態になり得る場合は、休業または休職に至る事情、使用者の規模、業種、労働者の配慮の実状などから見て短時間の復帰準備時間を提供したり教育的措置を採るなどが信義則上求められ、このような手段を採らずに解雇することはできない。
 休職からの復職など、労働者の業務遂行能力が問題となる場合は、担当させることが可能な業務が何であるかを考慮するとともに、復職後直ちに業務遂行に能力が不足しても、一定の教育訓練等で回復できるかどうかを判断して配慮する必要があります。このような配慮なしに業務遂行能力低下を理由にした解雇を行うことは、解雇権濫用となるおそれがあります。

 

11.    ストライキの実施およびこれに対する使用者の対応措置を原因とする稼動率減少を理由に解雇できるか

 ストライキの実施およびこれに対する使用者の対応措置を原因として稼働率が減少した従業員について、就業状況不良を理由に解雇することは、結果的にストライキの行使の制限となり許されない。
 本決定は、労働組合法7条1号については全く言及しておらず、より直接的に、「…レ ッスンの数の減少を解雇の理由とすることは、結果的に債権者のストライキの行使を制限することになり相当でない」等といった判示を行っています。これは、憲法28条の団結権、団体交渉権、団体行動権の保障は「公ノ秩序」(民90)であり、団体行動権の尊重の理念に反する解雇については、改めて労働組合法7条1号を持ち出すまでもなく私法上無効である(つまり無効を基礎付ける根拠は2通り存在する)と考えられていることから、憲法28条自体を根拠として本件解雇の無効性を基礎付けているものとも考えられます。

 

12.    身元保証書の提出要求に応じない社員を予告手当てなしに解雇できるか

 重大な服務規律違反のある社員を予告手当なしに解雇できる。
 就業規則に身元保証書の提出義務を定めておかないと、たとえ社員が身元保証書の提出 を拒んでも、それは社員の身元保証契約を締結しない自由の行使にすぎないと言われかねません。そこで、会社としては、社員採用の際は身元保証書を提出しなければならない旨就業規則に明記する必要があります。
 また、会社としては、身元保証書の提出が正社員採用の条件とされている以上、速やかにその提出を求めるべきです。現に本事例の第1審(東京簡裁)は、会社がAに正式な形で   身元保証書の提出を求めたのは入社1か月ではなく入社5か月後であると認定した上で、Aの請求を一部認めています。

 

13.    職務遂行能力・適格性を欠く場合に解雇できるか
 
 労働者が、労働契約において会社が求めている職務遂行能力・適格性を欠いており、今後雇用を継続しても平均に達することができない場合、会社は当該労働者を解雇できる。
 特殊な能力・技能・経験等に着目して労働者を採用する場合には、契約上も、当該労働 者に求める職務内容(職種)・職務遂行能力・技能等を明確に特定しておくことが有益です。
 他方、職務内容(職種)を限定した労働契約は、原則として労働者が同意を与えない限りその職務内容(職種)を変更することはできませんので、その意味で企業の人事権が制約されることになります。
 そこで、採用に際しては、企業としての採用目的、すなわち従業員にどのような労働義務を求めるのかということを明確にしておくことが必要となります。

 

14.    労働能率がはなはだしく低いことを理由として解雇できるか
 
 約5年5か月のうちの約2年4か月に及ぶ長期欠勤は、当該従業員の労働能率がはなはだしく低いものとして、普通解雇の理由となし得る。

 雇用契約においては労務の提供が労働者の本質的な責務であって、会社は傷病欠勤が多く労務を長期にわたって提供できないことを従業員としての適格性判断の材料とすることができる。
 前記のとおり、普通解雇が有効かどうかは実質的に判断されますから、普通解雇の効力を  争われた場合、会社としては普通解雇事由に該当する具体的事実を主張・立証する必要があり、日々の労務管理およびその結果としての記録をいかにして残すかということに十分留意する必要があります。なお、筆者が担当した同種事件においては、営業マンごとに作られているノート式の電話連絡帳に記載されている各伝言メモ(当該営業マンが不在のときに同営業マンあてにかかってきた電話を、応対した者が記入することになっている。)に顧客からのクレームの内容が具体的に、かつ日時や顧客名も明示されて記載されていたことが裁判所の普通解雇有効との心証形成に大きく寄与したということがありました。

 

 

15.    アルバイト行為を理由として解雇できるか
 
 業務時間の内外、その内容、態様、回数などを勘案して業務に具体的な支障があるか、会社の秩序を大きく乱すかについて、個別に判断する。
 解雇については解雇権濫用法理が適用となり、単に解雇事由が形式的にあるだけでは足りず、労働契約解消という効果に相当する重大性が必要となります。したがって、十分な証拠を集め、かつ適正な手続きをとることが求められます。
 アルバイトといっても、労働時間外の兼職と、労働時間内の私利行為では、大きく異なります。労働時間内の私利行為に対しては、他の従業員に対する規律維持のためにも、厳格な態度をとることが重要ですし、法的にも許容もされます。そのような事態が生じた場合には、事前に事実を十分に調べ、当該労働者に説明して反論の機会を与え、そのうえで処分を行うべきでしょう。

 

整理解雇、その他

1.        整理解雇が肯定される場合とは
 
 @整理解雇の必要性、A解雇回避の努力、B被解雇者選定の合理性、C労働者への説明・協議の四要件について総合的に検討し、経営上の必要性が認められる場合、整理解雇は有効である。
 整理解雇を行う場合は、第一に、整理解雇の有効要件がある程度定型化されており、その要件を意識して進めないと紛争になるということを充分認識することが大事です。
 第二には、現実に@人員整理の必要性、A解雇を回避する努力、B被解雇者の選定の合理性、C労働者側に対する説明・協議という要件に沿って準備を進めることが必要です。ただ、個別具体的事案に応じて各要件の重要性・比重が違ってきますし、具体的事案における要件の具体的内容も違います。専門家の意見を聞きながら進めることが絶対に必要です。

 

2.        整理解雇が否定される場合とは
 
 整理解雇の四要件について、解雇時点における具体的な状況を総合的に検討し、会社の高度な経営危機下における整理解雇の必要性が認められない場合、整理解雇は無効とされる。
 人員整理をしなければならない場合の基本的注意事項については前掲事例「整理解雇が肯定される場合とは」で述べたとおりです。ここでは、具体的要件に関して、ポイントを説明します。 第一に、人員整理の必要性は、解雇時点に必要であり、過去のある時期にあったというだけでは、必要性は否定されます。この事例がその例です。
 第二に、解雇を回避する努力の点ですが、臨時雇用者の雇止め、新規採用の停止、配転、出向、希望退職募集等が解雇回避の具体的方法です。具体的状況のもとで、使用者が真摯かつ合理的な努力をしたかが問われます。
 第三に、被解雇者選定の合理性です。基準の設定の仕方と適用の仕方については、解雇が有効とされた前掲事例「整理解雇が肯定される場合とは」の類似・参考判例、松山地裁西条支部昭和62年5月6日判決と、解雇が無効とされた後掲類似・参考判例の横浜地裁昭和62年10月15日判決がありますので、対比されると参考になると思われます。
 第四に、労働者側に対する説明・協議です。これは組合から団交の申し入れがなくとも、使用者として積極的に協議の機会を設けなければならないということです。

 

3.        事業の廃止・業務縮小により解雇できるか
 
 事業の廃止・業務縮小による整理解雇においても、整理解雇の要件を意識して解雇を行わないと解雇無効とされる場合がある。
 「整理解雇が有効とされるためにはいわゆる四要件を充足していればよい」ということになるわけですが、現実には、具体的に会社がどのような経営状況にあり、また解雇実施に向けてどのような努力や手続きを行えば「四要件を充足している」と後日裁判所で判断されることになるのかなど、事前には知る由もありません。
 したがって、企業担当者の方が業務廃止や事業縮小による人員削除措置の実施を迫られた場合には、まずは従業員との間の退職合意をとりつけるよう努力する(希望退職募集)のがリスク回避上当然の行為であり、整理解雇という選択肢は最後まで避けるべき選択肢であるというくらいに考えてよいのではないかと思います。

 

4.        将来の経営危機予防のために整理解雇できるか
 
 将来の経営危機予防のための整理解雇は、経営危機が継続、現存する場合の整理解雇に比してより慎重、厳格にされるべきである。
 将来の経営危機を見越した整理解雇の場合、人員整理の必要性の要件充足性が弱いということで、他の要件が厳格に判断されることになることを認識しておく必要があります。
 もっとも、要件が厳しいからといって、解雇できないわけではないので、充分事案を具体的に検討し、専門家に充分説明して意見を聞いて行ってください。

 

5.        転籍命令に従わない従業員を解雇できるか
 
 会社合理化のための大規模な転籍実施後、転籍に応じない労働者を解雇するためには、その労働者に対して配置転換や出向などで雇用の続行ができないことが必要である。
 転籍には従業員の個別の同意が必要であり、リストラの方法として大量の転籍を同時に行おうとする場合には、転籍を拒否された場合の拒否者の処遇についてあらかじめ明らかにしておくことが必要です。
 転籍を業務命令として行い、転籍を拒否したことをもって解雇理由とすることは認められません。転籍拒否者の解雇には、整理解雇等他の解雇理由が具備していることが必要になります。

 

6.        変更解約告知は認められるか
 
 新労働条件での新労働契約締結の申込みを伴う解雇は変更解約告知として一定の要件を備える限り有効である。
 この事例では、正社員でありながら職務や勤務場所が厳格に雇用契約で特定されている事情もあって、変更解約告知が有効と判断されました。本来、労働条件の変更のためには「就業規則の不利益変更」や「労働協約の締結による労働条件の変更」という手続がありますので、この事例の決定を安易にまねることは危険です。労働契約の内容や労働条件の決定方法が何であるか等、労働契約に関する状況に合わせて労働条件変更の手段を選択してください。

 

7.        整理解雇のためにパートタイマーを雇止めできるか

 パートタイマーとの期間を定めた雇用契約を雇止めする場合であっても、雇止めにおける正当事由および雇止めの濫用の有無が検討されなければならない。
 期間を定めた雇用契約を締結する際には、更新の可能性の有無、更新の限度回数など、雇用契約が継続し得る期間に関してできるだけ明確な基準を定めておき、漫然と更新を繰り返すことがないように注意が必要です。また、高齢者を雇う場合は、正社員の定年後何歳くらいまで雇用契約を継続する予定であるかも明確にしておかなければなりません。人員削減を行う際には、パートタイマー等正社員以外でも希望退職の募集など、解雇回避の努力を心掛けてください。

 

8.        組織統廃合に伴う解雇は、有効に行うことができるか

 複数の法人の組織統合を行うために従業員の地位が認められることがある。
 組織の統合などを行う際に、人員削減が伴うのであれば、安易に解雇するのでなく従業員と合意をして合意退職の方法で行うことが望ましいです。法人の組織変更があったからといって、旧法人が行った解雇の責任を新法人が免れることができない場合があることに注意してください。 従業員との退職の合意は希望退職の募集や退職勧奨を行うことによって成立させますが、退職の条件を明示し、再就職先の斡旋を行うなどをすることが合意成立のポイントになります。

 

9.        倒産手続に伴う従業員解雇の効力は
 
 倒産手続に伴う従業員の解雇も当然に有効とは限らず、特に企業活動の継続を前提とする場合には、当然に「解雇権の濫用」か否かが審査される。
 近時は、経営状況が悪化し事業性を失った子会社・関連会社をその支配会社が解散する、ということが実務上多く行われていると思われますが、このような場合に解散に伴いプロパー従業員を解雇することが当然に正当視されるものではありません。従業員との雇用契約関係を終了させざるを得ないとしても、まずは一方的意思表示である「解雇」ではなく「合意」による雇用契約関係の解消に向けて努力すべきであり、そのためには、従業員に対する十分な説明・協議を実施することと、許される原資の範囲で従業員が納得して「合意」に応じうる退職条件を提示することが必要です。そして、このような努力を尽くすことが、最終的に「解雇」をせざるを得なくなった際にもその有効性を基礎付けることになります。

 

10.    高齢嘱託社員の雇い止めに制限はあるか
 
 契約更新を期待し得る場合は、嘱託社員にも解雇権濫用の法理の類推適用があるが65歳以上の場合の者に対する類推適用には働き盛りの年齢層の者に比しておのずと程度に差がある。
 期間の定めのある嘱託雇用契約であっても期間満了により当然に契約が終了するもので はなく解雇権濫用の法理が類推適用され、更新拒絶するためには一定の合理的な理由が必要であることに注意して下さい。
 また、期間の定めある嘱託雇用契約を更新する場合は、更新のたびに新たな雇用契約書を作成し期間の定めのある嘱託雇用契約であることを当事者間で確認して下さい。

 

11.    整理解雇を回避するために行わなければならない措置は
 
 整理解雇においては、当該解雇を回避するための努力が十分に尽くされなければならないが、労働時間の短縮、新規採用停止、希望退職者の募集、派遣社員等の人員削減、従業員に対する再研修等の措置が常に必要不可欠な解雇回避措置として求められるものではなく、いかなる措置が講じられるべきかは、企業規模、経営状態、従業員構成等に照らし、個別具体的に検討されるべきものである。
 整理解雇に至るまでにいかなる解雇回避措置をとるべきかは画一的なものではなく、各 社のその当時におかれた個別具体的状況を前提として判断しなければなりません。その意味で、企業には今後も難しい判断が迫られるものと思われるところです。但し、これまでのようにあくまでも雇用を維持する、容易に解雇は認めないとの姿勢から、徐々に企業が解雇回避のために真摯に判断・選択した合理的措置を尽くした上での解雇であれば、解雇もやむなしとしてその判断を尊重するようになってきているように思われるところであり、今後ますますそのような傾向は強まるものと考えます。その意味で、もちろんむやみな解雇は今後も決して認められるものではありませんが、解雇をいたずらにタブー視して躊躇するのも妥当な姿勢ではないように思われるところです。

 

12.    「整理解雇の4要件」の法理は確立された判例法理か
 
 いわゆる「整理解雇の4要件」の法理も、必ずしも「判例上確立された」法理とはいいがたく近時の裁判例には同法理に依拠した判断を意識的に行わないものがあらわれている。
 近時の整理解雇事案に関する下級審裁判例のすべてが、「整理解雇の4要件」法理に批判的であるかというと、必ずしもそうではありません。東京以外の地方裁判所では、依然として典型的な「整理解雇の4要件」法理に依拠して判断を行っていると思われる事例も多数見られますし、また東京地方裁判所における近時の裁判例においても、典型的な「整理解雇の4要件」法理の判断枠組に依拠して解雇の有効性が判断されている場合もあるのです(この事例の第一次仮処分決定等)。
つまり、現在の混迷した裁判実務の状況を前提とする限り、将来、裁判所が「整理解雇の4要件」法理に依拠しない判断を行ってくれることを期待して企業が整理解雇を行ってしまうことは大きな誤りである、というほかありません。企業としては、人員削減手段として整理解雇という手段を安易に選択するのではなく、まずは「整理解雇の4要件」についての真剣な検討を行うべきです。

 

13.    心身虚弱により勤務に耐えられないことを理由とする解雇が認められるか
 
 身体障害者等級1級該当の障害者であることを前提として採用された従業員について、障害を前提とした労務の提供も困難であれば、心身虚弱により勤務に耐えられないとして解雇することも許される。
 心身の虚弱により労務の提供が困難であることは、当然解雇事由となり得ますが、実際にその労働者の労務提供の困難さがどの程度であることを要するのか、また使用者として労働者の心身の状況に対しどの程度配慮をする必要があるかは、労働者が担当する職務の内容や他の職務への配置転換の可能性等も検討の上慎重に判断する必要があります。
 会社は産業医の意見を適時聴取しこれに従って労働者が就労できるよう適切な対応を取り、専門家である医師のアドバイスを聴取することが不可欠です。

 

14. 会社が経営改善のため行った二度にわたる配転命令に従わない従業員の整理解雇   は、解雇権の濫用にあたらず有効か
   会社経営改善のため行った二度にわたる配転命令に従わない従業員の整理解雇が、解雇権の濫用にあたらず有効な場合がある。
 1 会社は従業員に転勤を口頭で内示し、二度にわたり配転命令を発したが応じず、その後、配転条件の譲歩を申入れ、数回にわたり説得したが応じなかったため、就業規則上の解雇事由「事業の縮小その他、事業の運営上やむを得ないとき」にあたるとして解雇の意思表示をした。この裁判例では、会社は従業員を整理解雇しています。しかし、配転命令拒否自体が重大な業務命令違反ですから、業務命令違反を解雇事由とするのが本筋です。この点出向についてですが「出向義務が肯定されれば、出向拒否は解雇事由となり、この面から解雇が正当化されよう。」とあり配転も同様に考えることができます。
 2 もっとも、配転にあたっては、労働者との十分な話し合いが必要です。場合によっては、配転期間の短縮や、労働者の家族に対する種々の配慮も検討に値します。この裁判例においても、会社は、配転期間を3年から2年に短縮するとともに、従業員の母親を伴う家族赴任を認めたり日向市での母の仕事を会社が探してもよいとまで言っています。現実問題としてそこまで出来るか難しい面もありますが、会社の対応は模範となるものです。