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過 去 の 出 来 事

過去の出来事を書いています。主に絵に関係する子供の頃のお話。

【第1回/少年時代1】

西暦19××年秋、俺は○○県のとある小島に生まれた。
幼少の頃よりマジックを片手に落書きに励んだが、
絵に関しては普通以下の素質しか見いだせなかった。
夏休みの絵日記は母親に描いてもらい、
交通安全ポスターは友達のをトレースする、そんな普通の小学生。

でも、興味はあったんだ。
テレビでやってるアニメだって、所詮人間が描いてるんだ。
パーマンもドラえもんも実在しない、
小学生の俺でも、そんなことぐらいはとっくの昔に気づいていたのだ。
頑張れば描けるはず・・・。

「ねえねえ、同級生で一番絵の上手いヤツは誰だ?」

ある日、友達に訪ねてみると、アサイ君(仮)とタカイ君(仮)の名前を教えられた。
そういえば、あの二人は学校の廊下にも絵が飾られていたな、
天文台の「未来の絵コンクール」でも賞を貰っていたぞ・・・うむ!

とりあえず目標をこの二人に定めた。
絵で彼らを上回る事が出来たなら、俺は学年でチャンピオンになれるのだ。
その為にはまず弟子入りしなくては。

「おーい!アサイ君(仮)タカイ君(仮)絵の描き方を教えてくれー」

俺は下校途中の二人を掴まえた。
そして、彼らの絵がウマイ秘密を聞き出そうと試みた。
だが、二人は熱心に何かを語り合っている。

ア「違うよ!宇宙人は悪人ばかりじゃないよ」
タ「じゃあ、何しに地球へ来てるんだよ」
ア「地球人の間違いを教えに来ているんだよ」
タ「だったら、なぜ姿を見せないんだ?」

喧嘩の真っ最中であった。

やっぱ、絵のウマイ人はどこか違うな!
話している内容も高尚だ!(憧れる〜♪)

彼らの後ろを歩きながら、俺は二人が別世界の住人のように思えてならなかった。
そして、分かれ道で「のす君バイバイ!」と二人に言って貰った瞬間悟った。

「俺には・・・絶対に無理だ・・・」

つづく


【第2回/少年時代2】

小学校6年生のある日、友達数人と運動場の隅っこに座って
ドッジボールをやってる子供にヤジを飛ばしていると、
遠くから声をかけられた。

「おい!お前ら!
 
んんー、グワーッ、カアーッ!」(←タンがからんでいる)

ヤツだ、石頭先生(仮)が恐い顔でコッチを見ている。
俺達を呼んでいるんだ。
みんなでぞろぞろと足を引きずりながらピロティまで行くと、
いきなり拳骨で頭を殴られた。

ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!

んんー、グワーッ、カアーッ!
 お前らはアカン!ダラダラしとる!なんか目的を持て!」

そう言って、図画工作室に連れて行かれた。
何をやっても無気力な俺達に、
石頭先生が直接絵を教えてくれるそうだ。

んんー、グワーッ、カアーッ!
 今から俺がウサギを描くので、それをよく見てマネろ!」

おや?この先生は顔に似合わず絵がウマイやんけ!
まるで魔法を見ているようだ。
俺達の目がキラリと輝いた。
たぶん、先生はヘタクソでも上手に見える描き方を、
どっかで習ってそのまま実践したのだろう。
無気力な生徒に希望を持たせる為に勉強してきたらしいんだ。

サラサラサラ〜、サラサラサラ〜。

んんー、グワーッ、カアーッ!どうや!お前らも描いてみー」
「うん!」「わかった!」

サラサラサラ〜、サラサラサラ〜。

俺達は先生の絵を真ん中に置き、それを見ながら夢中で模写した。
30分ぐらいかかっただろうか、次々と皆の絵も完成!

「やったできた!」
「うぉー!写真みたいやんけ!」
「お前のウサギもすげえー!」
「みんな先生よりウマイぞ!」

落ちこぼれ達は口々に悲鳴を上げた。
何事も頑張れば出来る、その事に気づき有頂天になっていた。
だが、一人だけ恥ずかしくて絵を出せない生徒がいた。

俺である。

俺のウサギは何故か薄汚く灰色で、
知らない人が見るとドブネズミと見間違えそうな(以下略

「のす・・お前・・・ホンマに・・・んー、グワー、カアー・・・

俺はますます絵が嫌いになってしまったよ。
この日の事は一生忘れません。

つづく!!


【第3回/中学時代1】

校舎はカビ臭く、始業のチャイムはテープが伸びておりヘンな音。
ほとんどの生徒の自転車はサドルがカッターで切り裂かれている。
体育館の便器が大量の爆竹で爆破された。
先生の体操服が切り裂かれ校門に捨てられている。
土手の上から町長の自家用車めがけて岩石を落としたヤツがいる。
授業中に腐ったソーセージが放り込まれ異臭騒ぎが起きる。
校舎に犬・猫の悲鳴が響き渡る・・・。

俺の入った中学はヒドかった。
なぜこんなに荒れていたのだろう?
とにかく、妙なヤツが多かった。

俺は楽しい事が大好きなB型だ。
常に皆様に喜ばれるギャグを考えている。
でもB型は協調性が無いと言われてるからね。
最初は自分の立場を弁えて控え目にしていようと決めていた。
まだ新学期が始まったばかりだし、この学校は恐いし・・・。

ある朝、元気良く「おはよう!」と挨拶して教室に入るなり、
同級生に尖ったガラスの破片で左胸を刺された。

グサッ!

「なにすんねん・・・」

シャツをめくると、ヒュルヒュルと赤い血が噴き出ている。
俺はしばらく呆然と立ちつくしていたが、周囲の悲鳴を聞いてハッと我に返った。
クラス中が大パニックになっており、友達数名に抱えられて教室から運び出された。
ポタポタとしたたり落ちた血で廊下や階段が汚れていく。
皆に身体を支えてもらって歩いていたが、
不思議と気分は落ち着いており、ケガの状態や犯人の事などは全く考えなかった。
誰がこの血を掃除するのだろう・・・、
他人の血はやはり汚く感じるよな・・・、
片想いの彼女に嫌われないだろうか・・・と、
妙な事ばかりが気にしていたように思う。

保健室に着く頃には俺は全身血塗れ。
廊下には血の足跡、階段の手すりには赤い手形、
友達のシャツにも俺の血がベットリとついている。

「先生!のすが怪我したよー!」 タタタタターッ!

友達が先生を呼びに行ったので、
一人でヨロヨロと保健室に入って行こうとした。
だがその時、後ろから小さな声で呼ばれたので振り向くと、
青ざめた少年が立っていた。
犯人の彼である。

「じょ・・冗談のつもりだったんだ・・お・・俺が犯人だって先生に言わないで・・」
「ええ〜〜?」

つづく


【第4回/中学時代2】

結局、俺は犯人をかばった。
ガラスが割れた窓枠に自分でぶつかってケガをしたのだと嘘をついた。
ケガは大したことなかったんだ。
刺さったガラスは左胸の大事な血管を外れており、
少し縫っただけで治るんだ。

その夜、担任のカチコチ先生(仮)が家に謝罪に来た。
先生は、自分が教室の割れたガラスを放置したせいで
ケガ人が出たと思って、責任感じているらしい。
だから、先生の担当する美術部に入らないかと誘ってくれた。

なぜ俺を美術に?
ケガした俺を励まそうと言うのか?
それとも不良だと思って監視しようとしてるのか??

先生はきっと犯人を知っていたんだと思う。
クラスの皆は刺した犯人を知っているから、調べればスグに分かることだ。
唐突な先生の誘いが妙にワザとらしく感じられたが、
断る理由が「早く家に帰ってテレビを見たい」しか浮かばなかったので、
結局入部させられてしまった。

 

数日後、ケガが良くなったので美術部に行ってみた。
部室では、男女6人が絵を描いており、
とても仲が良さそうだ。
俺は近寄って挨拶のつもりで話しかけてみたんだけど、

「うわースゴイなあー!」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「みんな何を描いてるん?」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「俺、今日から入部したんだー」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」

無視されたー!
初日から仲間はずれにされたよー!
うわーーーっ!!

  絵を描く人や黙々と働く職人に多い事だが、彼等は自分の仕事をジッと見られるのが苦手だ。
  半分照れもあるのだろうが、仕事を誉めてもプライドと劣等感の塊である彼等は
  素直に喜んでくれず、複雑な表情をする場合が多い。
  「そんな事ないよー、俺なんてまだまだだよー」と言った柔軟な対応は、
  当時中学生だった彼等に求める方が無理だったのかもしれないが、
  まあ、今はそんなことはどうでもよろしい。

でもその時は、ちょっぴり腹が立ったので、
美術準備室にいるカチコチ先生に言いつけてやった。

「俺、馴染めそうにないです。誰も口きいてくれない」
「ん、そうか」

そう言うと、先生は俺を側に立たせたまま、
スケッチブックを取り出して、いきなり静物画を描き始めた。
あれ?モチーフも見ずに?

サラサラサラ〜サラサラサラ〜

なんと、20分ほどで超リアルな静物画が完成!
そして描き終えた静物画の右下に大きく「のす」と俺の名を書き込んだ!

「な、な、なんで俺の名を?」
「いいから来い!」

俺は髪の毛を捕まれたまま美術室に連れて行かれ、
皆の前で強制的にお辞儀の格好をさせられた。
そして、先生は先ほどのスケッチブックを
「バーン!」と机の上に放り投げると、
とんでもない事を言い放った。

「見ろ!こいつの絵や!みんな仲良くせなアカンで!」

(一同ガーン!)

信じられなかった。
何のつもりだ、なぜそんなわざとらしい嘘を・・・
俺は悔しくて涙が溢れてきた。

つづく


【第5回/中学時代3】

結局、その絵は「のす」のサインが入ったまま、美術準備室前に飾られた。
同級生達は俺が美大レベルの絵が描けると勘違いしたが、
俺はその絵の前を通るたびに憂鬱な気分になった。
部活のメンバーとはいつまでたっても仲良くできず、
1学期中は絵を一枚も描き上げなかった。

夏休み、都会から遊びに来ていたイトコが、俺の教科書に落書きをしやがった。
教科書のスミに描かれた数十枚の落書きは
順番にめくると動いてるように見える。

スポーツカーが走り → 壁にぶつかって → 爆発する

それが生まれて初めてみたパラパラ漫画だった。
今思えば物凄くザツで単純なアニメだったけど、
当時の俺にとっては、
英語の先生がカツラである事や、学校の裏山にモアイ像がある事、
体育の先生がいつもジャージを前後逆に履いている事などの
重大な事件がどっかに吹き飛んでしまう程、衝撃が大きかった。

俺はこの日からパラパラ漫画に取り憑かれてしまったんだ。

夏休みは宿題をせず、毎日パラパラ漫画を描いて過ごした。
新学期が始まると、クラスの皆が自分の教科書にも描いてくれと頼むので、
授業中は勉強そっちのけで描き続けた。
こんな事ばかりやっていたので成績は下がる一方だったが、
皆が余りにも喜ぶものだから調子に乗ってしまったんだ。
(以後、高校三年の秋まで俺はパラパラ漫画を描き続けることになる・・・)

一年の三月、再び美術部を訪れてみた。
恋も、勉強も、スポーツも、部活もせず、
俺はただのパラパラ漫画職人になっていたのだが、
相変わらず「先生が描いた俺の絵」は廊下に飾られていた。
(少し不愉快な気分になったが以前程ではない)
俺はそーっと準備室のドアを開けて中を覗いた。
するとカチコチ先生が卒業制作の銅像を彫っているのが見えた。
それは卒業生が学校に贈る卒業制作なので、先生は手伝っちゃいけないんだよ。
卒業制作なんだから、先生が作ったらアカンがな!

の「な、なんで先生が卒業制作を作っとるねん」
カ「仕方ないやんけ、三年生は誰も手伝わんし」
の「あっはっは!ゲラゲラゲラ〜〜!」
カ「おい!のす、こっちへ来て手伝え!」
の「なんで?俺は卒業生じゃないぞ!」
カ「ええから、手伝え!」

ギュ〜〜〜!
俺はまたしても髪を捕まれ準備室に引きずり込まれた。
そしてノミを持たされて手伝うハメに・・・
な、なんで俺が・・・

コツ、コツ、コツ。

俺はその時、ふくらはぎの部分を彫らされながら、
部活を辞める決心をしていた。

「絶対やめたる!!!」

つづく


【第6回/中学時代4】

中学2年生では良いクラスメートに恵まれ、
毎日を楽しく過ごす事ができた。
一番無邪気で明るかった時代。

クラスには気の合う友達が5〜6人いて、
俺が一番イキが良かったので、なんとなくリーダー役であった。
俺達は楽しい事が大好きだった。
しょうもないギャグを連発して教室を笑いの渦に巻き込み、
学級日誌は俺達が占領、お笑い日誌に変えてみんなで回し読みした。
休み時間は替え歌を作曲、放課後は黒板で落書き大会。
1日に1度はへそが飛び出すほど大笑いしてた。
落ちこぼれでも、スポーツ音痴でも全然悲しくないさ。
だって毎日が楽しくてしょうがないんだもの。
笑顔に包まれて幸せなんだもの。

ずーっとこんな毎日が続けばいいなー♪

そう願っていたのだが、
2学期に大変ショックな出来事があった。
休み時間に隣の席の女子が話しかけてきたんだ。
彼女の名は「チーコ(仮)」クラスの優等生の一人である。

「ねえねえ、この漢字なんて読むの?」

バカにすんな!
そんな漢字はいくら俺でも楽勝で読めるのだ!

でも、あれ、待てよ、
彼女と話したのは初めてだよな、
よく見るとカワイコチャンだ、
手が真っ白、
この匂いはなんだ?
お花畑のような良い匂い、
クン、クン、クン、
クン、クン、クン、
クン、クン、クン、クン、クン、クン♪

俺は頭の中が真っ白になって、
頬が真っ赤に染まっていった。
そして、ボーッと彼女の白い手を見つめながら固まってしまった。

「のすのバカ!聞いた私もバカやった!」

それを聞いてハッと正気に戻ったのだが、
険しい表情の彼女は消え去った後だった。

バカ?
俺はバカじゃない!
答えを知ってたぞ!
それに、勉強が出来ないんじゃないぞ!
やってないだけだよ!

ムカーーーーーーッ!

 「男なら、危険をかえりみず
  死ぬとわかっていても、行動しなければならない時がある
  負けると判っていても、戦わなければならない時がある」

そうだ、

優等生どもに戦いを挑もう、
頑張って成績でクラスの頂点にのし上がってやる!
俺は優等生に生まれ変わらねば!!
変身する時がやってきたのだ!

一見無謀とも思えるこの決意が、
現実のものになろうとは・・・お釈迦様でも気づいていなかった。

つづく


【第7回/中学時代5】

チーコにバカにされてから、俺は猛勉強を始めた。
部活(美術部を辞めて陸上部に所属していた)には行かず、
毎日急いで家に帰り、自部屋に閉じこもる。
元々脳味噌が空っぽなので、知識は幾らでも入るんだ。

でも、突然勉強を始めたモンだから、
それを他人に知られるのが物凄く恥ずかしい。
悪い事じゃないので堂々としてれば良いのだけど・・・
いや、良い事をしてるからこそ気恥ずかしいのだ。
授業中、後ろを向いて喋ってばかりいる、
先生に怒られて、クラスの皆に笑われる、それが俺の役目だから、
「勉強出来ない君」の方が確かに似合ってる。
だから、学校では「勉強できない君」のままでいることにした。

そんな毎日が続くと、自分の実力の程度がさっぱり分からない。
問題集は一応全部解けるのだが、
実際に答案用紙を前にした時に全く違う問題がでたら、
と考えると、今の努力は全くの無駄かもしれないと思えてくる。

ええーい!チーコを見返す事が目的なんだ!
俺をバカにしたチーコより良い点数を取れば気が済むんだ!
落ちこぼれなんだもの、ダメで元々。
そう自分に言い聞かせた。

 

数ヶ月後、2学期の中間テストが行われた。
結果は・・どの教科もクラスでトップの成績であった・・。

「のすふぇらとぅ君はよく頑張っていますよ!!」

よそのクラスのホームルームで、
先生が落ちこぼれを叱る時に俺の名前を出したそうな。
俺は相変わらず授業中はお喋りで、輪ゴムを飛ばしたり、
鏡で太陽光線を反射させて遊んでいたのだが、
それ以後、同級生達の目がすっかり変わってしまった。
特に優等生達に敵視され、陰険な攻撃を受けるようになる。
でもバレンタインデーには生まれて初めてチョコレートを頂いたよ!(計3個)

肝心のチーコはというと・・・・
そう、チーコが肝心なんだ、チーコ、チーコ・・・
俺は知らぬ間にチーコを好きになっていた。
バカにされて憎いと思っていたのだが、
恋したみたい。ああ、チーコ・・・

「のす君、大事な話があるんだけど・・・」

ある日のこと。何と!チーコに呼び出されたんだ!
もしや・・・俺は人生の大きな岐路に立っているんじゃないかしら。
中房から脱皮する日が来たのかもしれないよっ!!

ゴゴゴゴゴゴォーーー!!

放課後、誰も居ない教室の片隅で「その時」はやってきた・・。

つづく。


【第8回/中学時代6】

チーコは不安そうな顔をして教室の隅に立っていた。
だが、俺の方は妙な自信に満ちあふれていた。

  大事な話だって?言わなくても分かってるさ。
  陸上部に入って頑張ってるし、成績もウナギ昇り。
  君がいつもコッチを見てる事は気づいていたよ。
  まあ、当然の結果だろうね。
  今じゃ俺の成績は君より上。
  スペインの無敵艦隊が破れたのは西暦1588年、
  イギリスの東インド会社設立は西暦1600年、
  アヘン戦争は西暦1840年。
  どうだ!クククククッ・・・(←↑心の声)

チーコは俺の友達の話を始めた。
様子を探っているようだった。

「ねえねえ、片山君(仮)って面白いよね」
「ああ」
「今日はパンを口一杯に頬張ってたよ」
「うんうん」
「顔真っ赤にして、おかしいねー!」
「そうそう」

だが、肝心要の「大事な話」がなかなか出てこない。

「片山君って部活でよく先生に怒られてるんだ」
「あははー」
「怒られてた時も顔真っ赤なんだー」
「ああーそうー」
「のすは見た事無いかな?」
「何を?」
「片山君が部活で走ってる所」
「うーん、無いな」
「一生懸命だよ」
「へえー」

脳あるタカは爪隠す。チーコはタカだ。
きっと爪を隠しているんだ。
大事な話はもうすぐ・・・。

「片山君ってさあ、スーパーの裏に家があるんだよ」
「知ってる知ってる」
「この前、スーパーの裏でゲートボールやってたよ」
「へえー」
「友達が話しかけたらね、アッチへ行けって怒られて」
「なんで?」
「女が嫌いだって」
「ふーん」

鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス
でも俺は告白されたって泣かないよ。
チーコは泣くのかな?ホーホケキョ。

「あのね・・・」
「う、うん」
 

 

「片山君に好きな人おるんかなあ?」
「?」
「のすは片山君ともよく話すやろ?」
「?」

 
「私・・・片山君が・・・好きなの・・・」

 

ゴゴゴォーー・・・・・・・・

その時、築き上げてきた何かが崩れていくような音を、
俺は聞いたような気がした。

つづく


【第9回/中学時代7】

「チーコは片山君に惚れている」

その事を知って以来、俺は勉強する意欲が失せてしまった。
坂道を転げ落ちる・・というより、崖から転落するかのように成績が悪くなり、
3学期の期末試験では、とうとう赤点をとってしまった。

(うう・・・どうすることもできなかったんだよ)

そして中学3年になった。
またクラス替えになったので、新しい友達を作らねばならない。
チーコやお笑い仲間とは別のクラスになってしまった。
それにもう古い友達とはもうオサラバさ。
俺は以前のように明るく振る舞えないんだ。
事情は聞かないでくれよ。
人は誰でも忘れたい過去があるもんだよ。

というワケで、新しい友達を作るべく、
休み時間に教室中をグルリと見渡してみた。
教室の中にはいろんなタイプの人種がいる。

・前方には優等生グループ
・後方には悪人グループ
・中央にはお笑いグループ
・入り口付近にはお喋りな女子
・窓際には窓際族
・ベランダにはナマケモノ

かつての俺なら教室の真ん中で頭の悪いギャグを連発していただろう。
教室の真ん中でバカ笑いが起きるたびB型の血が騒ぐけど、
チーコの事を考えると、どうしてもはしゃぐ気になれない。

(はぁ〜、いったい俺はドコへ行けばいいんだよ〜)

その時、窓際でピクリとも動かずにうずくまっているヤツが目に留まった。
彼は休み時間だというのに机から離れずジッとしている。
後ろから見るとまるで「黒い石」のようだ。

(寝ているの?それともドコか痛いの?)

何をしてるのかな?と思い、そおーっと近寄ってみると・・・、
なんと!彼の机の上には、超リアルなガンダムが描かれているではないか!!

「スゲーー!本物みたいやんけ!!」

俺は夢中で叫んでいた!
まさか同級生でここまで本物ソックリに描けるヤツがいたなんて!
というか本物以上のデキだ!まるで机の上が絵画のようだ!
俺なんて真正面でも上手く描けないのに・・・。

「たいした事ないよ。練習すれば君でも描けるよ」

そう言われてハッと見上げると、
そこにはタカイ君の顔があった!(第1回/少年時代1参照)
タカイ君!!たった3年でここまで上達していたのか!!!
それなのに俺は・・・ぐぅぅぅぅ!

休み時間の騒がしい教室、その片隅の小さな小さな机の上で、
神が与えた才能を目の当たりにし、
俺は・・驚愕していた・・・。

つづく


【第10回/中学時代8】

「どうやったらナナメから見たガンダムが描けるんだ?」
「簡単や。見た通り描けばええねん」
「ガンダムの実物なんて無いやんけー!」

俺は、ガンダムが描けるタカイ君を尊敬していた。
彼は口数が少ないが、時々妙な事を言うのでオモロイんだ。
宇宙の謎や四次元の話、環境問題、SF映画やアニメ・特撮に異常に詳しい。
いつも俺は「ふんふん」と聞いてるだけだったのだが、
周囲の目さえ気にしなければ結構楽しいんだコレが。

周囲の目・・・

そう、俺は3年になって性格が180度変わってしまった。
成績が良くて社交的だったのが、
タカイ君と知り合ってから成績が下がり内向的になっていた。
教室の隅でヒソヒソと宇宙の謎について語り合ってる俺達って、
どうみても気持ち悪いですよ。

「あの頃ののすは何処へ行ったん?」

昔の友達にそう言われたが、昔ののすは死んだんだ。
と言うか、どっちがホントの俺なのか分かんないよ。
だって俺は元々勉強嫌いだったもの。

担任からはバカ呼ばわりされ、
優等生達は冷ややかな目で俺を見ている。
でも、それとは反比例して美術の成績だけはグングン上がっていった。
ガンダムをナナメから描くこともできるようになったよ!
タカイ君には遠く及ばないが、頑張ればどんなモノでも描ける自信があった。

だが、そんな中学生活も終わりに差し掛かった頃。
俺は自分の不注意で大怪我をしてしまった。

グサッ!

右手首の甲にザックリと大きな傷が出来ており指が全く動かない。
救急車で病院に運ばれたんだけど、
医者に診せたら、

「指の筋が全部切れています。
 術後にリハビリすればある程度回復するかもしれませんが、
 指は元に戻りません。障害が残りますな。
 受験は左手で受けなさい。」

と言われた。

指が元に戻らない・・・。
この瞬間真っ先に頭に浮かんだことは、
スポーツや勉強の事ではなく、
絵が描けないかもしれないという事。

せっせと今まで頑張ってきたのに、
唯一の取り柄である絵を失うのか・・・

そんな絶望的な気分のまま、
俺は手術台の上で気を失っていった。

つづく


【第11回/中学時代9】

退院後、一か月間は腕にギブスをハメて生活した。
俺は学校や受験なんてどうでもいいや、と思うようになっていた。
義務教育を受ける権利が少々残っているので仕方なく行ってたようなモンだ。
今から受験勉強したって手遅れだし、手が使えないし。

久しぶりに学校へ行くと、俺の包帯姿に皆がギョッとした。

「包帯の下はロケットパンチか?」
「・・・」

からかわれても平気である。
もうちょっとオモロイ事を言えよ。
気にせず校門をくぐった。

「お前、自殺しようとしたってほんと?」
「・・・」

下駄箱でもからかわれた。
そんなに包帯姿が珍しいか?
白人が歩いてるだけで目を丸くするくせに。田舎モノめ。

階段でチーコとすれ違ったので挨拶した。
すると、彼女は突然うずくまり泣き出した。

「お前、チーコに何したんじゃー!」
「謝りなさいよ!」

何もしていないのに周囲の人間に罪人扱いされた。
泣く方がどうかしてるぞ。
そんなに包帯姿が怖いかい?
どうでもいいけどさ。

授業中、先生が皆の前で俺のケガの具合を説明した。
どこかから「キショ・・・」と言う声が聞こえてきた。
女子の声だった。
(キショ=きしょくわるい)

ムカムカーー!!

うちの学校は入学当初から暴力校と言われていたが、
卒業が近付くに連れ更にエスカレートしていた。
同級生がバイクで事故って入院した事件もあったが、
一番記憶に残ってるのは、
昼休み、正門から入ってくる車に向かって、
クラス全員で校舎から牛乳パックを投げ付けたこと。

みんな何かにイラついていた。
怒りの矛先を黒い車に向けていた。
黒い高級車に当たり破裂する牛乳パック、
その白の鮮やかさは今でもハッキリ覚えている。
慌てふためくドライバーに罵声を浴びせ、
逃げ帰る車に向かって勝利の雄叫びを上げた。
クラスの皆がイキイキと輝いていた。

俺は黙ってそれを見ていた。

つづく


【第12回/中学時代10】

左手での生活に慣れた頃、やっと右手のギブスが外れた。
受験日の数日前だった。
病院で握力を測定してもらったら、

「右5、左30」

右手は大きな手袋をはめているようで、
感触が鈍く自分の手じゃないみたい。
鉛筆を持ってもコロリと落としてしまう。

「先生、あのな、絵は描けるようになるん?」
「描けるよ、心配いらんよ」
「でもな、左手より動きが悪いやん」
「それは仕方ない、筋が切断されたんだから」
「うん」

右手はやはり完治しない。
可動範囲が普通の半分以下、手首を下に曲げられない、
握力も戻らない、素早く動かせない、
でも、これが生活に不自由無い程度の回復だと言われた。

受験に関してはケガの記憶の方が強烈だったせいか、あまり覚えていない。
入院していた間のブランクを取り戻そうとは思わなかった。
答案用紙は焦らず落ち着いて左手で書き込んだ。
そして、何の感動も無くあっさりと志望校に合格。
後は卒業式を待つのみ。

いつの間にか俺は暗い世界に迷い込んでいたんだ。
冬の強い風が好き、うっとおしい雨の音が好き、
暗い部屋で一人で過ごすのも大好きだった。
以前のような快活さはとうに失っていた。
友達付き合いも悪くなっていた。
もう大人になりたくない、子供にも戻りたくもない。
今の状態で止まっていたい・・そう願う毎日。

卒業式の朝、チーコから手紙を貰った。
「好き」と書いてあった。

こうして俺の中学生活は終わった。

つづく


【第13回/高校時代1】

高校生になった。
新しい制服、新しいカバン、新しい校舎、新しい教室。
何もかも新しくなったというのに、俺の隣を歩いているのは・・・タカイ君(仮)。
そう、彼と同じ高校だったんだ。

「ねえねえ、タカイ君、部活は何やるん?」
「やっぱり美術部かな。他に思い付かないし」
「じゃあ、俺も美術部に入るよ」
「マネすんなや!」
「まあええやん!」

俺には大事な計画があったんだ。
当時は夕方に「アルプスの少女ハイジ」や「機動戦士ガンダム」の再放送をやっていて、
それを見なけりゃならなかったのだ。
だから、熱心なスポーツ部よりも、地味で控えめで慎ましい美術部に入れば、
簡単に部活をサボれると思っていた。

クックックッ、しめしめ・・・

だが、そうは問屋が卸さなかった。
いや、部長が許さなかった。
なぜなら、この美術部はキョーレツに熱心な活動をしていたから。

ガラガラガラガラ〜〜シーン・・・

部室に入ると皆は静かに絵を描いていた。
壁際には果物や壷や剥製が綺麗に並べられており、
どうやらこれらをモチーフに静物画を描いているらしい。
俺とタカイ君は勇気を出して挨拶した。

「こ、こんにちは!ぼ、ぼ、僕達、び、び、美術部に入りたいんですけど・・・」

皆が一斉にコッチを振り向いた。
ニッコリ微笑む人もいれば、冷たい眼差しを向ける人もいる。

  言いい忘れてましたが、この頃の俺は人前に出るのが苦手で、
  大勢の人に見つめられるとあがってしまい、
  顔が赤くなって目が充血するという、
  俗に言う「恥ずかしがり屋さん」だったのです。

自分の頬が赤らんできたのが分かったので、
この段階で家に帰りたいと思ったんだが、
ピョ〜〜ン!といきなり飛び出してきた先輩に肩をつかまれて逃げられなくなった。
なんと、この人が美術部の部長さんだった。

「逃がさへんで〜、あ、あ、あ、あ」

とりあえず一人ずつ挨拶して回った。
「ウマイですね、プロですね」とオベンチャラを使って雑談を交わす。
そして最後に部室の隅で自分専用の小さなキャンバスとイーゼルを与えられた。
これで今日から美術部員なのだ!

この日は俺は病院へ行く予定があったので挨拶して帰ることにした。

「お先に失礼します」
ガラガラガラガラ〜〜シーン・・・

あれ?まてよ、今確かに何か見えたような・・・
もう一度部室を覗き込む。

ガラガラガ・・・・・・・・・やっぱり・・・

俺が見たもの、それは「○○○○マンのお面」だった。
部室の掃除道具箱の上に当たり前のように置かれている。
お祭りで買う平面的なお面ではなく、
本物の○○○○マンのように頭からスポリと被るように立体的にできている!
そして、驚いた事に目の部分が半透明のプラスチック部品で作られており、
ライトが仕込まれて、内側から光る構造になってるじゃないか!!

ガラガ・・・・・・・・・・・・・・・・・・タッタッタッタッ!

何かある!この部活は絶対に何かあるぞ!!
俺はなぜか嬉しくなって廊下を走り出していた。

つづく


【第14回/高校時代2】

手首の気味の悪い傷口はすっかり塞がって、
その代わりにブラックジャックのような縫い傷が残った。
右手で鉛筆や箸が使えるようになっていたので、
もうじき病院通いも終わるだろう。
でも、握力はこれ以上は戻らないようだ。
鉛筆を握ると手首が硬くなり動かせないのが気になる。

「右8、左30」
「先生、これ以上は治らんの?絵が描けらんの?」
「のす君、絵は手で描くんやないで、脳で描いてるんやで」
「ええ!!」

ハッとした。

確かに左手で描いても俺の絵になる。
頭に浮かんだ映像を手が再現しているに過ぎない。
絵は手ではなく脳で描いているのだ。
そうなんだ。

先生にこう言われてから、手のハンデが気にならなくなった。
やわらかく丁寧な線は引けないが、
その代わり硬く握りしめた手でゆっくり描けばいい。
文字も同じようにゆっくり大きく書くようにした。

はた目には「筆圧が強そうだな」「書き順がヘンだな」程度にしか見えないだろう。
手の障害は誰も気付かない。
ただ、野球のボールだけは手首のスナップが効かないので、
投げるとデタラメな方向に飛んで行ってしまう。
球技大会では暴投を投げてクラスメートに迷惑をかけた。

「スマンな!」

〜〜

十数年たった今でも握力は8で手首の動きも良くないのだが、
絵をずっと続けているし、PCのキータイプは誰にも負けない自信がある。
だから、俺は手の事は気にしないです(むしろ忘れている)。
「手」も道具の一つに過ぎない。
肝心なのは描いている俺自身なんだよ。

つづく


【第15回/高校時代3】

俺のクラスは男子と女子の比率が1対3だ。
男子校の生徒が聞けば天国のように思うかもしれないが、実際はそうではない。
休み時間には男どもは暗い教室の隅で小さくなって過ごさねばならない。
体育の後の着替えも、女子が遠慮無しに入ってくるので急がないといけない。
時々陰険なイジメもあったので、女子が苦手だった俺にとっては、地獄のような教室だ。
だけど、中には数名ジャニーズ系の男子がいて、そいつらだけ女子達にモテモテ。

「きゃーっ!○○くん〜!」
「きゃーっ!こっち向いて〜!」

なんか、一部の男子だけ優遇されて、俺たちは奴隷のようだ。差別だよ。
なぜ人を顔で判断するんだよ!せめて平等に扱って欲しい!!
もういやだ・・こんな教室・・。

ある日のこと。昼休みに弁当を食っていたら、廊下に黒い人影が見えた。
隣の棟からやってきた工業科の生徒だ。何しに来たんだろう?

  工業科は男子校のような環境です。
  女子が一人も居なくて、校舎が汗臭い。油臭い。
  廊下では毎日プロレスが開催されており、
  喧嘩が弱いと生き残れないと言われていました。

「のす君、工業科の奴らがキミを呼んでるよ」
「え〜、なんで俺?」
「さあ?恐いので早く行った方がいいよ」

廊下に出たら、早速ブサイクな男達が俺を取り囲んだ。
校則違反の制服、髪型もヤクザみたいだ。
ハラマキしてる人もいるよ・・。

「え、あの、何?俺に用って・・」
「ポケットの中の金を出せや」
「持ってないよ」
「わしらナメとるやろ」
「なぜ?ナメてないよ」
「工業科をバカにすんなよ!」
「・・・」

向かいの工業科から見たら、コッチの棟は女子が溢れていて天国に見えるんだろうね。
その天国にいる俺たちが羨ましいらしい。
彼等は毎日俺たちの棟へやってきて、憂さ晴らしに一人ずつリンチしてるらしいよ。

廊下での騒ぎに気付いて、教室から女子達が顔を出した。
それに気付くと、奴らは余計に腹が立ったのか、顔を赤くして怒鳴った。

「はよ金出せや!!!」

ポケットの中の左手は1000円札を握りしめていた。
この金は、帰りに友達とお好み焼きを食べる約束があるので、
出す訳にはいかないんだ。
それに、皆の前で暴力に屈する姿を見せられない。
かといって、出さないとボコボコにしばかれるかもしれない。
いや、死ぬかもしれないぞ。いったいどうすれば・・・。
絶体絶命やんけ・・・。

恐い顔をして睨むニキビ面の男が、俺の襟元を掴もうとした。
だが、その時後ろから出て来た一本の手が奴の腕を掴んだ。

「?」

そしてグニッとねじって動けなくすると、勢い良く蹴飛ばした!

ドガガガッ!

俺は一瞬何が起こったのか分からず、
ふっ飛ばされるニキビ面の男を呆然と眺めていた。
男は大の字になって倒れ、背中を床に強く打ちつける。
ふと横に誰かが立っているのに気付いた。見覚えのある顔。
皆の視線も一斉にその人物に集まる。

「健さん!!」(一同)

  健さんは中学時代からの同級生。
  口数が少なくて俺はあまり喋った事が無かったんだけど、
  こんなに喧嘩が強いとは知らなかったんだ。
  それに、いつの間にか背も高くなってゴッツくなってるぞ!
  おいおい、格好良すぎるぜー!

「工業科へ帰れや!ボケ!!」

健さんはヤクザどもに向かってこう言い放つと、
俺の肩を掴んで屋上へ向かう階段をゆっくり上がって行った。
後ろを振り向いたら、ニキビ面の男が背中のホコリをはらっていた。
どうやら奴らはもう追って来ないようだ。

(脱出成功・・・)

屋上のドアを閉めると、健さんはタバコを取り出した。
ライターで火をつけ、白い煙を吐きながら座る。
俺も座り込んだ。まだ足がブルブル震えていたよ。

「サンキュー、助けれくれて・・」

「恐かった?」
「うん・・・」

「俺も!」

そう言って笑う彼の口元には、まだ幼さが残っているように思えた。

つづく


【第16回/高校時代4】

教室では女が多すぎて言いたい事が言えない。
一日中黙って過ごしていると気がヘンになりそうだよ。
だから、放課後になると急いで部室に向かうのだ。
部室に行けば、気を許せる仲間が居るので落ち着く。
当時の俺は、部活をしに毎日学校へ通っていたと言っても過言ではない。

部活では、夏休み前に静物画を描き上げる計画だった。
周囲の人達も俺も無言で追い込みの作業に入っていた。
なのに、部室の隅にいる先輩は絵を描いているようには見えないんだ。
イーゼルの山の向こうから、特撮やアニメの音楽が流れて来るよ。
何やってるんだろ?この人。
俺は思いきって部屋の隅に行ってみる事にした。

「あのー・・・」
「宇宙刑事〜♪ぎゃ〜ばぁーん♪チュー、チュチュ〜、チュ〜チュ♪」

先輩は音楽を楽しんでいて俺の呼びかけに応答しなかった。
まあ、俺は声が小さいからね。仕方ない。
そおーっと後ろから覗くと、机の上の用紙に何かを描きこんでいる。

カリカリカリ・・・

「先輩それ何ですか?」
「ん?これ?絵コンテです」

絵コンテ・・どこかで聞いた事があるけど、何だっけ??
先輩の描いている紙をよく見ると、
ロボットが戦っている絵が描かれている。

「え?なんで?美術部なのにロボット描いてもええの?」

不思議そうにしている俺に、先輩は親切に教えてくれた。

この美術部では、文化祭の共同製作として自主制作アニメーションを制作している。
今回が二度目の試みで、去年はとりあえず「絵を動かす」ことに成功したので、
今年はテレビアニメ並の画質に挑戦してみたい。
その為に、今のうちに絵コンテを描いておいて、
夏休みになったら全員が作業開始できるよう準備してるんだそうな。

「アニメ?本当に作るんですか?」
「そうですよ」
「マジで??」
「君も一緒にやるんですよ」
「あ・・・」

開いた口が塞がらなかった!
なんたる偶然!俺の趣味にピッタリだ!
幸いにも、既に俺は中学時代にパラパラ漫画の経験があり、
その腕前は島内一と自負していた程だ。(ただし棒人間アニメ)
こりゃあ、大変な事になるぞ・・・。

俺は回れ右をすると、自分の席に戻った。
そして隣に座っているタカイ君にそっと教えてやった。

「うそぉー!!」

タカイ君も凄くビックリしたみたい。
彼はガンダム描きの名人だったので、
きっとアニメ制作がはじまれば、その能力を発揮する事になるだろう。

だが・・俺には心配事があったんだ・・。

肝心要の絵の腕前についてだ。
俺はガンダムを同じポーズ、同じ角度でしか描けない!
オマケにガンダム以外は描けない!
人間のキャラクターにいたっては、真正面の「顔のみ」で、
カラダなんぞは描いた事が一度も無かったのだー!!
ギャア〜〜〜!!

どうしよう・・・。

つづく

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